弓削島サイクリング

ゆめしま海道の弓削島へ

愛媛の北東端、瀬戸内海に浮かぶ弓削島。
人口3千人ほどの小さな島だけど、壮大な海原に囲まれ古い町並みの残る、実に興味深い島なのだ。因島南端の家老渡港からフェリーにのるとわずか5分ほどで、上弓削港に着く。

因島の家老渡港から上弓削港へ
因島の家老渡港から上弓削港へ

船着場には待合室もなく、ひどく簡素だが、こう見えても因島と弓削島を結ぶ最短ルートでもあり、住民の足として利用され、通勤時間帯には結構混み合うという。

 

上弓削の集落に迷い込む

ペダルを踏み出すとすぐに、なまこ壁を使い、古い意匠をこらした旧家が並ぶ細い路地に出た。上弓削の集落だ。

京都東寺の荘園として栄えた弓削島
京都東寺の荘園として栄えた弓削島

この地は古代より人が暮らしを営み、鎌倉時代には京都東寺の荘園として栄え、江戸時代には参勤交代の風待ち港として賑わったのだ。線バスが角を曲がり道いっぱいになって近づいてきた。裏路地だと思っていたのは、上弓削のメインストリートであった。

 

玄関先を掃き清めていた老人が「この道幅は江戸時代のまんまよ。でも当時にすりゃあ、馬車も通れる立派なもんやっつろう。」と教えてくれた。「その門構えの立派な家が、昔のお庄屋さん。殿様らも泊りよったらしいわい。」気さくな老人のお話に歴史の舞台を垣間見た気分にさせてもらい、蒼い空と海にはさまれた道を、清涼感いっぱいにペダルを踏んで、次は下弓削の町に向かう。

 

役場や商店がたたずむ弓削島の中心部だ。港には弓削商船高専の練習船”弓削丸”が停泊している。全国にある商船高専5校のうちの1つがこの島にあるのだ。「元ポルノグラフィティのTamaや俳優の北村一輝も、通いよったんよ。」とカフェでくつろいでいると、島の方が教えてくれた。

 

地裏の小道に吸い込まれてみると、ここも風格と趣のある木造家屋があちこちに立ち並んでいる。白壁の家々が目立ち、個性的な景観だ。「防空壕を車庫にしている人がいる」...と聞いた。面白そうではないか!と探してみたが、見つけれなくて、残念。

 

帰りは、下弓削港を利用するのもいい。因島や今治とを結ぶ航路を数社が運行しているので、運賃と出発時間に応じて好きな船を選ぶのが面白い。待合室の券売機には、それぞれの船の写真まで載っており、まるで食堂の食券販売機のようだ。高速船にも自転車は別料金(船会社によって料金の違いあり)で積み込める。

 

メインタウンの下弓削から、路地裏の古めかしい家並みの間を抜けて行くと、ほどなく島の裏側に出る。そこには、松林を背にした白い砂浜と青い海原が広がっていた。

 

弓削島の松林と砂浜

「法王ヶ原」と呼ばれるこの松林、かつては樹齢300年以上の松が数百本、青々と生い茂り、昼間でも中に入ると薄暗かったそうだ。しかし、老いたり松喰い虫の被害等により、今ではずいぶん数が減ってしまっているという。松林はキャンプ場にもなっており、夏場などは強い日差しから守られ、潮風に吹かれての快適なキャンプが出来そうだ。ここにテントを張って、日がな一日読書三昧などして過ごしてみるのも良さそうだ。

海水浴場百選の松原海水浴場
海水浴場百選の松原海水浴場

その前面に三日月のように広がる砂浜は、「松原海水浴場」。環境省選定の『海水浴場百選』のひとつにも認定されている島屈指のビーチだ。海水浴は19世紀の中頃ヨーロッパで始まり、当時は医師が温泉治療のように海に浸かることを勧めていたそうだ。日本では明治時代に軍医の松本良順が、健康の維持と回復のために奨励したという。この松原海水浴場も、明治の頃から地元の人々に愛され、今でもボランティア活動によって貴重な美観が受け継がれていると聞いた。

弓削島の島一周ルートをサイクリング
弓削島の島一周ルートをサイクリング

さて、白砂青松の浜から島の北東部に向かって、島の一周道路を進んでみる。道は山の中腹へ登り、展望が一気に広がる。高台を走りながら見る海は壮大で、とてもきれいだ。晴れた日には、遠くに豊島、高井神島、魚島(いずれも上島町の島々)を望むことも出来るだろう。谷間に貼りつく鄙びた集落が、どこか哀愁を誘うような印象をたたえている。

島の北端まで行くと、道はミカン畑に向けて急降下。久司浦という集落からは海沿いにフラットな道が延びている。蒼い空と海に囲まれてペダルを踏めば、スタート地点の下弓削地区はもうすぐそこだ。

弓削島…多彩な歴史と文化を残す町並み。往来をしのんで路地裏を走り、潮風にふかれれば、過ぎ去った時代へとトリップできるかもしれない。

2010年2月

 

<因島~弓削島間航路>
・家老渡(かろと)港⇔上弓削 ¥220(人+自転車) およそ30分毎に船便あり
・長崎港⇔下弓削 ¥350(人+自転車) およそ40分毎に船便あり

 

上弓削~下弓削 (平坦な舗装路) 距離4~5km/所要20~30分

 

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Profile

宇都宮一成うつのみやかずなり

自転車好きが高じて10年かけて夫婦でタンデム自転車による世界一周を敢行。88カ国を巡った。帰国後、NPO法人シクロツーリズムしまなみでポタリングガイドとして島走中。しまなみ海道の魅力再発見のため島々をすみからすみまで走る回る毎日を過ごしている。

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