今治波方町小部の渋食堂「てんまや食堂」
2012年7月18日
旅先ですごく魅かれてしまう飲食店・・・がある。昔からその場所にあり、先代の味を受け継ぎ、地元の常連さんに支えられているお店。
今治市街地から自転車で40分ほど離れた波方町小部(なみかたちょう おべ)にも、一軒の隠れた名食堂がしっかりと営まれている。 それが「てんまや食堂」。漁師町の入り組んだ路地の中にある。
「食堂を始めてから、52年になるかいのお」と話してくれたのは88(?)才になる初代女将の木村さん。ぽっちゃりとした体のせいか実年齢よりも若く見える。
「戦後しばらくしてからやけど、うちの旦那が九州へ出かけた時、泊っていた家の隣が製麺所で、『波方町には製麺所がないけん、これをやっちゃろう』と思うたらしいんよ。考えついたらさっと行動する人やったけん、作り方も知らんのにいきなり機械と一緒に戻って来てね……ほんまに。」体をゆすりながら、遠い昔を振り返る。
そうして製麺業を始めたものの、売れ残った麺を畑に埋めて捨てるのが、やがてしのびなくなり、それならばと開いたのが「てんまや食堂」なんだそうだ。
長年、建て増しを繰り返してきた店内には、20名ほどが座れるように木机4つと木製イスや事務用イスが置かれている。ちょうどお昼どきのためか、近所の若者や作業着の男性が入れ替わり立ち替わりやってきては、中華そばやお好み焼きを注文していく。
片隅の厨房で自家製麺をはかりにのせて、湯がいて盛付けているのは二代目の女将さん。お客さんと言葉を交わし、手際よく注文をさばいていく。手があくのを見計らって、その製麺機を見せてもらった。
自転車二台分ほどの大きさで、重厚に黒光りしている。60年近くたった今も麺を打ち続け、たくさんの人の味覚やお腹を満たしてきた貫禄がみなぎる。「毎朝、生地をこねて麺をつくるんやけど、以前はおじいちゃんがしよったんよ。それを私がひきついで4年ぐらい。ちょっとしたサジ加減で麺の出来が変わるけん、結構大変なんよ」。
近頃、人気ラーメン店の必須条件は自家製麺だという。 わざわざ昭和初期の製麺機を購入し部品を調整して、こだわりの麺を作る有名店もあるらしい。ならば「てんまや食堂」の自家製麺はまさに今のニーズにぴったりじゃないか。
イチオシの中華そばをすすると、昆布とかつおだしの効いた濃厚スープと、もっちりとコシのある麺。ラーメンのような感覚を覚えた。ヤミツキになりそう。こんな自家製のイケ麺が、ザルそば(4~11月頃)や焼きそば、そしてそば入りお好み焼きと、バリエーション豊かに楽しめる店なんてそう多くはないだろう。
知る人ぞ知る店だけど、「ときどき、オートバイや自転車に乗って食べにくる人もおるよ」とのこと。波方町小部のソウルフード、地元御用達の味へ、ぜひペダルを踏んで訪れて見て欲しい。そんじょそこらにはない魂の味に出会えるはずだ。
今治市波方町小部甲760-1
0898-52-2332
火曜休み
11:00~14:00
※電話して営業を確認してから行くのがおすすめ。