前神一心堂(大島)
※2017年1月 惜しまれつつ閉店となりました
地域に愛され続けて120年余の歴史を誇る和菓子屋、それが大島・宮窪町にある「前神一心堂」だ。
饅頭、どら焼き、タルト等が主商品で、前神鈴美さん(75歳)が一人で切り盛りされている。昔は、4、5人の菓子職人さんがいらしたそうだが、3代目だったご主人の佳郎さんが20年程前に他界され、以来お一人で店を守っていらっしゃるのだ。
素朴な店内はまるで昭和の駄菓子屋さんのよう、飾らない老舗屋さんなのである。
おすすめ商品その1は、”蜜柑まん”1個100円。みかんの皮が入っている食べ応えのある一品だ。全国菓子大博覧会で金賞を受賞している。
おすすめ商品その2は、”よろい最中”1個100円。こちらはなんと!最中のカタチが鎧になっている!能島水軍の里として知られている宮窪ならではの一品で、1年を通しての人気商品。こちらも金賞受賞!
おすすめ商品その3は、”水軍太鼓”1個100円。白あんに青海苔が入っていて、海の雰囲気を演出している。夏の売れ筋商品にもなっていて、全国菓子大博覧会で名誉金賞を受賞している。
どの商品も全て手づくり!!作る人の顔が見える安心安全のお菓子だ。地域の方たちからは、冠婚葬祭の品としても重宝されている。
冬場は、ショートケーキなどの洋菓子も作っていて、バースディーケーキの注文にも応じている。前神一心堂の和菓子は、お土産に最適だし、サイクリングで疲れたときの糖分補給にもちょうどいい。前神一心堂の饅頭のあんは、ずっしり濃厚なので飲み物は忘れずに。店内には椅子もあるので、腰を落ち着けて食べるのもいいかも?!穏やかなお人柄の鈴美さんに地元の観光ポイントなどを聞きながら味わうと、旅気分も一層盛り上がりますぞ?!
女主人の前神鈴美さん(75歳)は、お世話好きな雰囲気を漂わせた、少女のような笑顔を持った方だ。3代目だったご主人、佳郎さんと19歳の時に結婚して以来、共に和菓子を作り続け店を支えてこられた。4、5人の職人をかかえていたこともあり、大島のフェリー乗り場売店に商品を卸していた頃は飛ぶように売れたそうだ。徹夜も珍しくなかったらしい。
アイスキャンデー&カキ氷屋さんも営んでいたそうで、盆踊りの日は島民みんな朝まで踊り続け、ミルクセーキ味のカキ氷が、これまた飛ぶように売れた。「忙しい思いだけしてきた」と、涼しげな顔で笑う鈴美さん。
20年程前、ご主人が入院された時は店を閉め、付きっきりで看病されたそうだ。しかし、懸命の思い空しくご主人は黄泉の国に旅立たれてしまった…。鈴美さんはその時、「お店は絶対にたたもう」と心に誓ったそうだ。
でも菓子工房に入ると、今までのようにご主人がそこにいて一緒に仕事しているような気持ちになってきた。不思議な力が湧いてくる…。気が付けば鈴美さんは店を再開していたそうだ。「仏様の力やったんやろうかねぇ…」と鈴美さんは当時を振り返っておられた。ん?、深いお話だ。夫婦の絆というものを改めて考えさせられる。
それまでご主人が担当していた生地・あん作りから焼きまで、今では全てを鈴美さんが手がけている。もともとは甘いものが大好きだった鈴美さんだが、さすがに60年近くもお菓子作りを続けてこられて、今は味見するだけで十分だそうだ。現在は、朝3、4時ころ起床し、家や周辺の道路を掃除した後、和菓子作りにとりかかっている。早起きな所に、鈴美さんの几帳面な性格がうかがえる。
鈴美さんの趣味は”園芸”。店を営んでいると出かけられないし、ペットも飼えないからという理由で始めたそうで、紅葉、千両、万両などを丹精込めて育てている。
残念なのは、120年余の歴史を誇る老舗和菓子屋なのに後継者がいらっしゃらないことだ。子どもさんたちは、別のお仕事につかれていたり、県外にいらしたりして、前神一心堂を継ぐ予定はないそうだ。でも、残念と思うのは私の余計なお世話かもしれない…鈴美さんの穏やかな笑顔を見ていてそう思った。
鈴美さんは、地域の人たちに愛されながら、亡きご主人に見守られながら、今日も和菓子を作り続けている。
(2009年9月)
前神一心堂 | |
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住所 | 今治市宮窪町宮窪2742 |
料金 | “蜜柑まん”1個¥100、“よろい最中”1個¥100、“水軍太鼓”1個¥100 |