ちょっとマニアックな離島訪問記<斎島編>

「持って行っても、走るところはありゃせんぞ」。
 

ここは安芸灘とびしま海道、呉市側から3番目の豊島(とよしま)。その豊島港から南へ7kmほど沖にある“斎島(いつきしま)”へ渡る高速船に乗船しようとすると、船員のおじさんからいぶかしげに言われた。

 

 

定期船で豊島から斎島へ

とびしま海道の離島・斎島の写真

1日5本の定期船が大崎下島、豊島、斎島を結んで運行されている。運賃は330円、自転車代は130円。豊島港10:55発の便には、斎島のおばあちゃんがふたりと、郵便配達の女性、そして僕の4名。自転車は客室内に持ち込み、壁に寄せて停めておく。

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「あんたもぶち珍しいわいのぅ。自転車持って行く観光客なんかおらんのやが……」。再び奇異の眼で見られながら出航。 それもそのはず、周囲は約4km、面積も0.7km² ほどで、住民はわずか16名という、小さな小さな島なのだ。 現在は過疎高齢化しているけれど、蒼い海と豊かな漁場に囲まれていて、江戸初期から昭和の中頃までは、とにかく魚で潤っていた所だそうだ。

 

途中、大崎下島の港を経由するのだが、沖合いで警笛を鳴らし、桟橋に人影がないのを確認して通過。船長さんが、「この港は波消しが無いけん、風の強い日は三角波が立って出にくい所じゃけぇ」と、操舵輪を回しながら教えてくれるのだった。

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斎島に上陸!

約17分で三日月型の砂浜に、赤色の浮き桟橋が見えてきた。斎島に到着。船を降りると切符に付いた上陸券を回収される。そして、さあサイクリング開始!浜の端にある桟橋をスタートして、コンクリートの道をたどる。左手に家屋と緑林の山、右手に砂浜と青い海原。この島には不釣合いなほど大きな研修宿泊施設「あびの里いつき」の前を通過し、鳥居を横目に前進。

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所要2分のサイクリング?!

島に信号は無く、たぶん車も無い。島民はいるはずだけど人影も無い。竹柵に囲われた畑の横を抜けて湾を回り込んで行くと、もう道の終点。走行距離500m、所要2分の斎島サイクリングを無事達成。交通事故の心配が無くて、とても良い所やね!

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集落の路地に潜入

では、ベイエリアを離れて集落の細路に潜入してみよう。最盛期には500余人もが暮らしていただけに家屋数は多く、二階建ての家々が目に付く。が、いまは大半が廃屋のようだ。宅地跡もそこかしこにあり、雑草が茂っていたり、野菜畑にしてあったり。さびたトタン屋根、辻々にある井戸、傘電球の街灯・・・昭和のまま時間が止まってしまったような感覚にとらわれはじめていると、ある古民家の裏手で昼のバラエティ番組が聞こえてきた。それとともにお昼ごはんの匂いも。ひとの生活の気配にホッと救われたような気がするのだった。

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浜辺に大きな赤い電球を付けた板小屋を発見。消防団の倉庫かな?格子戸からのぞいてみると、手押し車に積まれた発電式の消防ポンプと消防ホースが置かれてる。外の横壁には赤い郵便ポストも取付けてある。郵便配達中の女性が辻から現れて「時間がたっぷりあるけん、何往復も出来ようね」と笑いかけてくれた。

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走るとこなんか、なかろうが!

「あんた、何しに来とちゃった?」という声に振り返ると、白い長靴に青い帽子のおじいちゃんがトコトコと近づいてきた。「走るとこなんか、なかろうが!」と怒ったような口調にびっくりしたけど、けして怒っているわけではなさそうだ。

とびしま海道の離島・斎島の写真

地面に干したひじきを混ぜ返しながら、斎島で生まれ、20代後半で関西に勤めに出て、50代になって親の面倒を見るために帰島。今は、漁をしたり、畑で野菜を育てながら暮らしているのだと話してくれる。そして、「昔は、隣近所で助け合いの関係があったけんど、今は人もおらんようになって、そんなんもなくなってしもうた……」と、以前はてっぺんまで畑だったという山をながめて、寂しげに言うのだった。

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マナイタ浜を目指すも…

集落の奥地に自転車をとめて、竹やぶにおおわれてしまった山の荒れた道をたどる。おじいちゃんに教えられた“マナイタ浜”は、島の裏手にあるらしい。白い砂浜が広がり、潮が引くと沖にまな板のような細長い岩場が見えるという島の名勝地なんだとか。が、途中で道を間違えたらしく、みかん畑へと迷い込む。引き返して浜へ降りる道を見つけた時には、そろそろ帰りの船の出港が迫っていた。残念だけど時間切れ。潮の引く夕刻の方がベストタイミングということなので、いつか野宿キャンプをしに来てみようかな。人っ子一人いない浜辺で星空を楽しむのもすごく面白そう。

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桟橋へと戻る

桟橋に戻り、待機している切符売りのおじさんに料金を払い、12:40発の便に乗船。帰りは郵便女性と僕の2名だけ。「昔の話じゃけんど、ぶり釣りの好きな伊予と安芸の殿様が島の取り合いをしてのぅ、とんちを利かせた安芸の殿様の島になったんじゃけぇ。ほいじゃが、山のてっぺんにだけ笠の広さぐらいの伊予の土地も残とったらしいけぇのぅ。こげな歴史の話も面白かろうが」と船員さんが自慢げに話すのを聞いている間に、船は豊浜港へ帰着。

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ディープな離島めぐりの旅“斎島”。

 

その魅力はたった90分ほどの滞在じゃあ、ちょっと味わいつくせなかったなあー。

 

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宇都宮一成うつのみやかずなり

自転車好きが高じて10年かけて夫婦でタンデム自転車による世界一周を敢行。88カ国を巡った。帰国後、NPO法人シクロツーリズムしまなみでポタリングガイドとして島走中。しまなみ海道の魅力再発見のため島々をすみからすみまで走り回る毎日を過ごしている。

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