典座(大三島)
農家カフェ、漫画カフェ、猫カフェ、メイドカフェ……と、様々なカフェが流行っているが、一風変わったカフェを大三島に発見した。なんと「病院カフェ」。

現役の病院ではない。築33年になる個人病院の建物をリフォームし、今年8月にオープンしたばかりのお店だ。お店の名前は『典座(てんぞ)』。「曹洞宗で料理を作る人のことらしいのよ。典座料理というのをテレビで見て、『うわぁ、典座ってカッコいい!』って、ビビッときたのよ。」と話してくれたのは、オーナーの菅百代さん。

細身ながらエネルギッシュな話しぶりで、「還暦過ぎているのよ」と言うけど、そんな年齢に見えない女性だ。
おじいさん、お父さんが医者だったそうで、思い出が詰まったこの元病院は、もともと重厚な造りなだけに、入り口のガラス扉からして厚みと風格に満ちている。内部は白を基調にした落ち着いた空間に変わり、百年ものの食器棚や趣のある
皿が飾ってある。

注文したシフォンケーキと季節のフルーツを食べていると、「そのお皿、伊万里焼よ」と言われた。ただの派手な皿ではなく、そんな逸品だったとは……。おじいさんが趣味で集めていたのだそうだ。
海を渡るように斜張橋が伸びている。青い空と生口島を望む絶好のロケーション。
「景色が一番のごちそうよ。逃げたりしないからね。海を愛で、森を愛で、
のんびりしてもらいたいの」と微笑む百代さん。
“一人でしています。お待たせすること……おゆるしくださいませ”
のメッセージボードが目に付き、尋ねてみると、「いつでも辞められるって状態で始めるのが私の主義なの。だから、人は雇わない。お金は借りない。そうでないと楽しめないでしょう?本当はわがままにしたいだけなんだけどね」と笑いながら教えてくれた。
以前は今治市内で家庭レストランを営み、口コミでひろがり予約で一杯の人気店だったという。その料理の腕をフルにいかして、大三島で採れた食材や野菜をたっぷりと添えたメニューを用意している。
「幼馴染がね”形が悪いけど使ってね”と野菜や果物を持ってきたり、観葉植物を飾ってくれて毎日水遣りの世話をしに来てくれるのよ」このレストランのくつろいだ雰囲気は、百代さんの故郷の仲間たちと一緒に作り上げられているようだ。
お店の目印は、白い建物に「菅医院」の文字が目立つ屋上看板。「お店の看板に付け替えたら?」と言われるそうだけど「はずすのはお金もかかるし、うちの歴史だからね」と百代さん。この”病院の看板”ってところがトレードマークなのだ。

「父が手術室で使っていた65年前の手洗いよ」
と、玄関の入り口にしつらえた手洗い台を指さす百代さん。
そんな、ちょっとシュールな秘話もあるカフェで、大三島でのひとときを過してみてはいかがだろう。
(2011年9月)

典座 | |
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住所 | 愛媛県今治市上浦町井口7333 |
電話 | 0897-87-2224 |
定休日 | 水曜・木曜日 |
営業時間 | 10:00~17:00 |
料金 | コーヒー/紅茶/フルーツジュース 各¥400/ ランチメニューもあり |
ウェブ | 公式ウェブサイト |
